こんばんは。
こんにちは。
苦手だったのですが、園子温監督の映画で気になっていたので、家賃三部作を鑑賞することにしました。
苦手になったきっかけは簡単で、『地獄でなぜ悪い』を映画館で観て、好きではなかったから。
もう二度とお金は掛けるまい、と思っていました…
ただ、以前に『冷たい熱帯魚』を観たら逆に面白くて、一気に家賃三部作を全部観てみるか、と思い立ちました。
どの事件も知っていたのですが、内容は、うん、どうとでも脚色できますから、フィクションとしてはこれでもありかもしれません。
ネタバレありというか、映画を鑑賞済みであることを前提に感想を書いていきます。
『冷たい熱帯魚』(2011)
ほかにも考察記事を拝見して、オイディプスコンプレックスを連想したあたりは、ほかにも考えた方がいらっしゃって、少なくとも自分一人だけの妄想ではなかったのだなと安心しました…
でんでんさんのお芝居は、他作品でとても人柄のいい役をいくつも拝見していたこともあって、この作品は新鮮でした。
悪人であったり、死の間際の、退行した弱々しいところであったり、新たな面を見ることができたなと。
「生きるってのはなあ……痛いんだよお!!」の絶叫が強く印象に残ります。
    
『恋の罪』(2011)
未解決事件ですが、にしても脚色され過ぎていて、元の形はない。原案が事件、というだけなのかな。
菊池いずみの、裸になって鏡の前でハキハキと「ご試食いかがですかー?」は笑ってしまった。
それと、尾沢美津子の頭の良さについていけないせいで、彼女の言動が狂人にしか見えなくて…すみません…ほぼ理解できないよ。
唯一理解できたのは、「愛する人とのセックス以外では対価として金を取らなければならない」というところだけ。
あんな、地の底から響くような、魔王みたいな笑い声を聞きながら、性交できるものなんだろうか…普通に怖かった。
にしても、美津子の母が一番狂気的で、爆笑してしまいました。彼女のためにこの作品はあった、と言っても過言ではない。
上品なマダムの笑みから放たれる「売春の方は、上手く行ってるの?」「これからどんどん、下品になっていくのですね」はもう、破壊力の塊なのよ。
娘を貶しつつの居間の場面が作中で最も、突き抜けて大好きでした。
以下、聞き取れた範囲で書き起こします。
「うちの子なんかあなたこの子の父親に似てほんと、生まれながらに下品なんですよ。ふふふふふ…」
「私のおうちはとてもとても、家柄が良いのですよ。でも私はこの子の下劣な父親と間違って結婚してしまったのよ。ほっ、私も若かったんですねえ。でも、うちの両親は反対しましたの。この子の父の身分とうちの家柄では釣り合わないってね。今でこそ理解できますけど当時私若かったんです。反発しましてね。で、この子の父親は、私のうちに婿養子として来たんですよ。でもこの子の父親は結局私のうちには馴染まなくてね。いつもこの子と慰め合ってましたよ。まあ結局、この子の出来の悪いのはこの子の父親の血ですよ。下品で頭が悪いのも似てます。忌まわしいあの男の血がこの子に流れてるんです。喜ばしいことに、あの男は十年前に死んでしまったんですけどね、それからはもうこの子は悲しくって悲しくっていつも、泣いてましたよ。最近は随分元気になりましたよ。売春を始めてからはね。下品ですから。下品に落ちていくと何と言うか、息が吐けたんでしょうね、ほっほっほっほ…ふっふっふっふ…」
「お気を付けあそばせ。あなたは今はまだ下品ではないのですから。血迷って何が何だか分からずに、この下劣な粋女と付き合ってしまったんでしょうけど、早く目を覚ましてくださいね」
美津子「クソババア、早く死ねよ」
「あなたこそ早く死ねばいいのにねえ」
ピンクボール「何なら、どっちも殺しましょうか? なんてね。面白いでしょ、ほんとこの親子面白いでしょ」
「どうぞ殺してくださいな。こんな忌まわしい血、いっそのこと止めてくだされば、うちの家系もこれ以上傷がつかずに、済みます」
句読点の打ち方どうなってるんだよ、肺活量エグいな。
(「粋女」はごめんなさい、「いきおんな」と聞こえたのですが明らかにおかしいですね。何と仰っていたのか分からず申し訳ない。)
「この売女ー! クソアマー! 殺してやるー! あの男と一緒に死んじまえー!」と包丁をぶん回し、泣き喚く。狂気。
そして終盤でも相変わらずこれが発揮されていて、拍手喝采。
「間違いありません。ええ、そこに全部、揃ってますよ」
「あの子は昔っからほんとに始末に負えない下品な子でしたのよ。あなたもセックスなんていう下品な行為に負けてはだめですよ。あの子は昔からセックスに負けた下品な子でした。だから私は、あの子の下品な部分を切り取って、閉じ込めてあげたんですよ」
「私はずーっと前から、あの子が売春していることは分かっていたのですよ。まあ……なんて汚らわしいことでしょう。あの男の血が為せる業ですよ。うちの家系からは考えたらもうもうもうあり得ません。あの男の血に逆らえないあの子は毎晩、男を漁っていたのです。恐ろしいことです…。私はもう居ても立っても居られず、あの子の後を追って、そっと伺っていました。あの悍ましい廃墟で、あの子がしていたことの、悍ましいことといったら…」
「私はあの子の下品な部分を切り取っていただいて、持ち帰りました。悪い種を全部、封じ込めるために」
「大いに手伝っていただいたおかげで、ええ、きっと我が家もこれで元に戻れると思いますよ!」
からの、事件の回想。
「あたしの出番だね」からの、上品さをかなぐり捨てた「小僧!」呼ばわり、めちゃくちゃ大好きです。
ここでようやく、母がここまで、夫と娘を執拗に汚らわしい、下品と呼んでいたのかが分かる。
ピンクボール、首吊って死んでるのが、小市民感があって、少しだけ好感が持てました。気持ち悪いですが。
にしても、田村隆一もこんなところで自作『帰途』を引用されるとは思わなかっただろうなあ。
    
『愛なき森で叫べ』(2019)
Netflixでは、『愛なき森で叫べ Deep Cut』が配信されていたので、そちらを拝見しました。
女子校における『ロミオとジュリエット』の演劇、映画制作を夢見る若者たち、という設定を盛り込んだせいで、話が取っ散らかりまくりで、物語に入っていけない。
『恋の罪』もそうでしたが、実在の事件の設定(通電棒や家族全員を巻き込んだこと、布団販売業を営んでいたこと)を一部借りただけで、あとは脚色しまくりで、この作品に関しては、その事件を扱いたかったのかどうかも分からなくなっていた。
つまり、作品としての芯がどこにあるのかが全く分からないので、ずっと何を見ているんだろう…状態。
シンの言動があからさまにおかしいので、彼が連続射殺事件の犯人なのは分かりやすくて、ミステリとしても楽しめない。
グロとしては、これは特に人に依るので何とも言えませんが、個人的には満足いく程度ではなかった。
強いて言えば、でんでんさんのパンクロックなコスプレを拝める貴重な作品…なのかもしれない。
三部作については、最初の『冷たい熱帯魚』が最も面白かったです。
その後の失速というか、尻すぼみ度合いがすごくて…せめてもう一度『冷たい熱帯魚』を見て、あの頃はよかったなあと懐古した方が良いかもしれない。