あお くろ ぎんいろ。

ぽつっと、ひとりごと。 たまに、しゅみをつめこんでみる。

2025.4.16_映画『波紋』感想(ネタバレ含む)

 

 

 


こちらでははじめまして。
goo blogからのお引っ越しです。
あちらからの過去記事は、改めて引越しします。

 


さて、映画『波紋』をね……U-NEXTで鑑賞したのです。
たまたまおすすめに出てきたのですが、これは……!!素晴らしいものを薦めてくれてありがとうございますU-NEXT!!
久しぶりに邦画で素晴らしい作品を鑑賞させていただきました。
とてもよいものをありがとうございます…公開当時にウォッチしていたかった…!映画館でお金を払って観たかった!!
U-NEXTでは、『エピソード0』として、主演の筒井真理子さんと光石研さんのインタビュー40分程度の動画も配信されています。供給をありがとう……

 


まずは、基本情報から。
監督は荻上直子監督。
主人公を演じるのは筒井真理子さん、ですが、筒井さんはもちろん、登場人物皆様、錚々たる顔触れです。
光石研さん、柄本明さん、江口のりこさん、平岩紙さん、木野花さん、キムラ緑子さん、磯村勇斗さんなどなど。
そして、そっとムロツヨシさんが入ってるんだものな…吃驚した…
映画のキャッチコピーが「絶望を笑え」。
”絶望エンターテイメント”という触れ込みですが、まさにそのとおりの作品でした。

 

あらすじをそのまま引用します。
-----------------------
新興宗教をよりどころとし、一人穏やかな生活を送っていた主婦・依子。
ある日、失踪した夫が十何年の時を経て帰ってきたことで、その毎日がゆがみ始める。
介護や更年期といった様々な困難に対して湧き上がる負の感情を、依子は信仰心で押し殺すのだが…。
-----------------------

 

ブラックユーモアがこれでもかと詰め込まれた、最高の作品です。

 

ここから先は、ネタバレありで感想を述べていきますのでご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


3.11の原発事故で、水道水や空気が汚染されているなどの流言飛語が飛び交い、ペットボトルの水が売り切れまくった時期の東京が冒頭の舞台です。
「水」に関する描写が非常に象徴的に、何度も描かれています。
開始10分くらいで、光石さん演じる夫が失踪します。

 

そして月日は流れ、介護をしていた夫の父も死に、息子は九州で就職し、依子は一人で暮らしています。
そこに、夫が戻ってくる。
このときの、ぼろっぼろ具合が非常に良いです。
依子の不在時を狙って、金目の物を漁っているところが非常に浅ましいのですが、夫が失踪した後の家の変化もよく描かれています。
生活感のあった家は、綺麗に整理され、至るところに新興宗教の崇める水が所狭しと置かれている。
夫は、「うわ…」とは思っているのですが、それを依子には言わない。優しさなのか、気が弱いのか、触れるのが怖いのか。
しかし、自らが癌であることを明かし、未承認薬しか治療法がないため、高額の治療費が必要になったことを依子に説明して、それを依子から断られると、一転するわけですが。
依子と周りが衝突するときの波紋の描写が非常に怖くて良いです。
依子は、今更戻って来た、いろいろと「波長」の合わない夫に対して、イライラがどんどん蓄積していく。
衛生観念だとか、性格の合う合わないだとか、同じ家で暮らそうとしたら結構大事ですものね…
さらには、勤め先のスーパーでクレーマーの常連客がやって来て、更にフラストレーションが溜まる。
それを、信仰心というか、はっきり言えばインチキグッズで何とかしようとするのですが、なかなかうまくいかない。

 

そこで、勤め先の清掃員のおばちゃんが、近くの市民プールに行くことを勧めてくれる。
更年期障害やストレスを、運動で発散することを提案してくれたわけですが、依子は最初はそれを受け入れられない。
でも、結局はそこに通うようになって、そこでその清掃員の方と仲良くなります。
ここで、「水場」であるプールが選ばれているのも、また良いですね…
宗教のリーダーからは、夫を許すことで魂のステージを上げることを奨励されますが、おばちゃんから言われたのは真逆。
「しっかり仕返ししてやらないと」。
宗教では「人を呪わば穴二つ」と言われるのですが、おばちゃんからは「肉を切らせて骨を断つ」。とてもスカッとします。
昔の女じゃないんだから、自分を殺したっていいことない。
木野さんが個人的にものすごく好きなので、ここの筒井さんとのやり取りは、この作品内でもとても好きです。
この二人の掛け合いは何度か出てきますが、どれも印象的です。

 

「癌だって…」
「癌だって言ったって、自業自得、因果応報。男なんて、甘やかした途端つけあがるんだから、許しちゃダメ」
(↑これを聞いた途端に出て行く男性たち、めっちゃ面白かったです)
「後で後悔したくなかったら、死なれる前にしっかり仕返ししとかないと」
「仕返し…? いやーそんなことしたら、魂の次元が…」
「え? あんた、何言ってんの?」(このときの木野さんの表情が最高)
「あ…ある人に言われたんです。『人を呪わば穴二つ』って」
「……」(呆れた、という顔)
「だから、人を呪うと、やがて、結局自分のところに返ってくるって」
「『肉を切らせて骨を断つ』って諺もあるよ」
「え?」
「捨て身で敵に勝てってこと! 自分も傷つく覚悟で、相手に大打撃を与えてやるのよ。酷いことされて、黙って我慢してたんじゃ、損しちゃう。昔の女じゃないんだからさ、そんな風に自分の感情を抑えつけることないんだよ?」
「ええ……仕返しなんて、していいんですか」
「いい! あたしが許す!」

 

ここで吹っ切れた依子さん、少しずつ心が宗教から離れていきます。
自分を抑える、同調圧力の象徴でもあるような新興宗教に対する違和感が大きくなっていく。
一方で、夫の病気のことを聞いた信者たちが、「夫を献身的に支える依子は偉い」「主婦の鑑」「見返りを求めず、無心で人に尽くす精神が素晴らしい」と褒めてくる。
これは、夫への仕返しを始めた依子にとっては、非常に居心地が悪い。
このときの江口さんと平岩さんの真っ黒な目というか、ビー玉のような曇りなき眼というか、「染まりきってる」感が凄まじく怖くて、俳優さんてすごいな…と感服しました。
しかも、タイミング悪く「夫を勉強会に呼んでほしい」とまで言われる。
夫と亀裂が深まっている依子は、治療費を出す代わりに、勉強会に来ることを約束させます。

 

今まで、クレーマーの言うことを聞いていましたが、「お客様は神様だろ!!!」と怒鳴られて、すっと表情が抜け落ちて「夫が癌なんです。神様なら、どうにかできますか?」と反撃。最高だ…!!
別に、本当に助けてほしくて言ってるわけでもないしね。

 

勉強会のときの、夫のアウェー感半端ない……! 思わず笑ってしまいます。
心にもない大演説で、聴衆を沸かせますが。
いや、このときは本心なのかと疑わせますが、後々、やはり本心ではなかったことが判明します。
宗教のダンスのとき、手でハート作っちゃってる光石さんが可愛かったです。
薬の点滴の場面、1滴落ちる度に「20万……25万……はい30万。はい35万……」「ありがとうね」「はい40万……」の流れが面白過ぎる。1滴ずつのプレッシャーが凄まじい。そして、その「はい」は返答なのか何なのか。

 

点滴中の夫に、夫の父同様のセクハラをされてからの、これ以上ないほどの冷たい顔で「親子ね……」が怖い。
そして、その後の木野さんとのやり取り。
なかなかくたばらない夫について、「どうせ癌なんでしょ。ほっといたって、先にくたばってくれんだから」からの「でも……念じるだけなら、罪にはならないよ」がめちゃくちゃ好きです。
本当に念じている様子の依子さん。しかも、その手を合わせている対象が、「許し」を説く宗教の神棚という、このちぐはぐさよ。

 

息子が久々に家に来ますが、聴覚障害のある彼女さん連れ。
それに対して、依子さんはストレート過ぎる障碍者差別をします。
一方で、息子とその彼女も、母親の目の前で、手話によって母親の悪口(おそらく、頭おかしい的なこと)を言う。
両者、嫌な感じだよな…
障碍者への差別意識、息子より6歳も年上であることなど、息子を心配するが故だろうけれども、彼女のことが気に食わない。受け入れられない。しかも知らないうちに、息子と同棲までしている。
だとしても、あの歯ブラシの意地悪を、夫だけでなく彼女にまでしてはだめだろ…
嫌だったんだろうね、息子と彼女の歯ブラシが仲良さげに一つのコップに入ってたものね。だめだけどね。
しかも、彼女を、夫同様、「弱者」のカテゴリとして勉強会にアクセサリーみたいに連れて行ったらもっとだめだよね。

 

ただし、彼女も彼女で、結構嫌な奴ではある。
「息子と別れてほしい」と言われて、「彼氏が『そういうことを母親が言って来たら、自分に知らせてほしい』と言っていた」「『母親は頭がおかしいから、何を言われても気にするな』と言われている」と、馬鹿にしたように笑う。
そして、「彼氏にこのことを告げてもいいか」と挑発してくる。
人間なのだから、「善」なる面だけなわけがないんだが、この二面性は嫌だなあ…気持ち悪い。
彼氏の母親とはいえ、初対面の他人相手に、軽んじるような態度をとるのはいかがなものかと。
いくら、自分が差別を受けたからといってね…でも、こういうのも、ある意味での強い女性の「生き方」なのかもしれない。

 

息子は息子で、新興宗教に傾倒した母親(そして、障碍者差別をするであろう母親)、失踪した父親、どちらに対しても負の感情を抱えている。
父親は、放射能汚染が怖くて逃げたのではなく、依子が嫌で逃げたのだと、息子は非難する。

 

さて、この一連のことを、木野さんがよく表現してくださっています。
「あっはっは、ストレートに差別すんね、あんた」
「あ…すみません……ま、まあね、息子のことなので、どうしても……」
「そうだよね。普段、そうじゃないつもりでいてもさ、どっかで、ね。みーんな、ね」
「皆ですか」
「皆どっかで誰か見て、自分より下とか、自分より上とか、思ってるとこあるよね」
「……」
「今にして思えば、あの横柄なじじいだって、どうしても半額にしてほしい、切ない事情があったかもしんないし。ね、あんたが、言い返したとき『よし!』って思ったけど。買い物せずにそのまま帰ってくじじいの背中見てたらさ、何とも、もの悲しくてさ」
「……ミズキさん、お子さんは」
「息子。帰ってきやしない。可愛いのは亀だけ」
「亀?」
「亀の求愛行動って、相手の前で手を震わすの。こんな風に」
この場面もかなり好きです。

 

しかし、この後、このミズキさんがプールで意識不明になり、入院してしまいます。
依子さんは、ミズキさんの亀を預かるために自宅に入ることとなり、そこで、ゴミ屋敷同然の惨状を目にすることとなります。
そして、部屋の隅で埃を被った、彼女の息子の仏壇も。

 

ミズキさんは、こう言います。
「笑っちゃうでしょ。清掃員の部屋があんなだなんて」
「あの、おっきな地震の日、仕事が終わってうち帰ったら、色んなものがそこら中に落ちてて。それ見たら……ぷっつり、片付けられなくなっちゃって。皆、もう無かったことみたいに暮らしてるけど、私あの日からずっと……埋もれたまんま」
「亀は万年て言うでしょ。いざとなったらあたしは、野垂れ死にすりゃいいけど、あの子たちがどうなっちゃうのかと思うと、そればっかり気になって」

 

それに対して、依子さんは部屋の片付けを手伝わせてくれないかと申し出ます。
うん……やっぱり、こういう、ミズキさんのような方って、たくさんいらっしゃると思います。
地震だけではなくて、何かがきっかけで、ぷっつりと糸が切れてしまうことって、誰にでもある。
依子さんも、夫の失踪がそうだったのかもしれないなと、少し思いました。

 

夫の失踪後、夫が世話をしていたガーデニングの花を一本一本勢いよく引っこ抜きながら笑っていたという依子さん。
その話を聞かされ、夫は「さっさと死ぬわ」と呟きます。

 

ムロツヨシさん演じる前世占いしてくるおじさんの言っていた蟷螂の話がここで登場するのが面白かったです。
前世は蟷螂の雄で、交尾中に雌に食べられて死んだと言われた夫。
庭の枯山水の石の上に蟷螂を見つけ、それを、ホースの「水」で追い払おうとする。あるいは、殺そうとする。
そして、倒れる。
非常に象徴的な描写で好きです。

 

夫の死後、遺体を納めた棺を業者が家から運び出しますが、枯山水の庭を上手く渡れず、棺を引っ繰り返してしまい、夫の遺体が転げ出ます。
せっかく、毎朝綺麗に整えていた枯山水の波紋がぐしゃぐしゃに乱れる。
でも、それを見て、依子さんは、心底おかしそうに、大声で笑うのです。

 

最後に、息子が「フラメンコ、またやってみたら?」と告げて去ります。
雨の中、赤い傘を落として、枯山水を踏みしだき、最初は宗教の歌を歌っていましたが、吹っ切れたようにフラメンコを踊り始める依子さん。
喪服の下?というか裏地?、真っ赤だったんかい!! めちゃくちゃお洒落やん!!
このフラメンコがはちゃめちゃに格好いいです。
真っ赤な傘、喪服の下に隠された真っ赤な服と相俟って、最高でした。
草履だと踊りにくそうだったけれども、このちぐはぐさも含めて、非常に良かった。
絶望の中、生き方を変える、解放されていく女性の姿のようで、眩しく映りました。