こんばんは。
こんにちは。
Netflix配給の映画『闇はささやく(Things Heard & Seen)』を鑑賞しました。
邦題の翻訳には当たり外れがありますが、これも「どうにかならなかったのか」感がすごい。邦題と物語の内容がほぼ全く噛み合わないし、主題からは完全にズレている。
いっそ、原題のまま公開しようとは思わなかったのかしら。
それだと、視聴者数が見込めない……のか?
邦題を見た瞬間、自分は、宮部みゆきさんの名作の一つ『魔術はささやく』のパクリか? などと連想してしまいました……
さて、そんな理由で勝手に期待度低く見始めた作品でしたが、例の如くネタバレありで感想を書いていきます。
ちなみに(ちなみにから始めるな)、調べた限りで、本作は、エリザベス・ブランデイジさんの小説『All Things Cease to Appear』が原作とのこと。
映画化に当たって、大分タイトルが変わってしまっておるな(邦題は見る影もない)。
閑話休題。
主人公は、拒食症を患う女性、キャサリン・クレア。
その夫、ジョージ・クレアと、幼い娘フラニーの家族を巡る物語です。
キャサリンは、美術修復家としてマンハッタンで働いている、劇中では友人から「都会派」と呼ばれている女性です。
しかし、序盤で、ジョージが田舎の大学での教職に転職したようで、一家揃って田舎に引っ越すことに(しかも夫は勝手に住居を契約してしまっていた)。
キャサリンは、職を辞し、専業主婦としての生活を余儀なくされます(本人は、この生活に相当フラストレーションが溜まっている様子が窺えます)。
そんな中、引っ越してきた家の中で、彼女はある分厚い本を発見。そこには、家系図が書かれていましたが、一部の名前が黒塗りにされ、彼らの名前の下には「地獄落ち(Damned.)」との記載が。
さらに、金の指輪を見つけ、それに触れてからというもの、霊の存在を見るようになります。
同じ頃、娘のフラニーも、寝室の隅に得体のしれない影を見るなど、怪現象に怯えます。
しかし、夫のジョージはそうしたものについては真っ向から否定(論文では、その道の思想家であるスウェーデンボルグを題材にしていたにも関わらず)。
字幕では「スウェーデンボルグ」と表示されていましたが、エマヌエル・スヴェーデンボリのことですね。
存命中に霊界を見てきたという自身の体験に基づき、数々の著作を残した人物です。
劇中では、彼の著作の一つ、『天界と地獄』が何度か登場します。
その後、キャサリンは家系図をきっかけに、過去にこの家で起きた凄惨な事件を知ることに。
それは、クレア一家が引っ越してくる前に住んでいた家族は、父親が妻と息子二人を殺そうとした(妻のみ死亡)という事件。
キャサリンは当初、霊を、最初に家を建築したスミット夫妻の妻だと考えましたが、降霊会を通じて、そうではなく、その事件で亡くなった妻であることが判明。
また、それだけではなく、もう一人、悪霊も棲んでいることが分かります。
事態が少しずつ動いていく中、一方のジョージはというと、若い女性と肉体関係を持つなどしています(この女性にフラれると、ジャスティンという同僚に乗り換えようとしています)。
また、キャサリンがジョージのかつて描いた絵として気に入っていた海辺の絵画たちも、実はジョージが制作したのではなく、彼の死んだ従兄弟が描いたものを、従兄弟の死後、盗んだだけであることが判明(劇中では直接的に描かれませんが、この絵画こそ、キャサリンがジョージを好きになった理由だったのかと思われます……)。
絵画の制作も嘘、また、結婚の直接の契機となった出来事も、娘を授かったので仕方なくだったことから、これまでの不満も相俟って、キャサリンの夫に対する失望は決定的なものに。
もはや関係の修復は不可能な状態に陥った夫婦。
さらにジョージの言動はサイコパスみを増していき、とんでもない事件に発展する……という内容。
ここからが感想です。
もう面倒になって「サイコパスみ」などと書いてしまいましたが(笑)、ジョージの言動は、サイコパスそのものです。
冒頭から、「こいつの共感能力の欠如すごいな……」と思っていましたが、彼の立ち居振る舞い全てが、それどころの話ではなく、純粋なサイコパスであることが分かります。
(口が巧い、表面的には魅力的、自己中心、病的な嘘吐き、罪悪感の欠如、共感の欠如、妻に寄生した生活、行動がコントロールできない、性関係の奔放さ、短気、衝動的、親としての無責任さ、自身の言動に全く責任を取らない、過去の犯罪歴……と、劇中に現れた言動だけでも、ことごとくサイコパシーの要件を満たしています。すごいわ。)
終盤で彼は、家に棲みつく悪霊に唆され、キャサリンを斧で殺害しますが、だからと言って「悪霊に憑かれていたのか、それなら可哀想に」とならないのがすごいところ。
というのも、劇中で、悪霊に憑りつかれるのは、もともと人間の性質として悪である(善性を持っていない)者だけ、と明確に述べられているから。
そして、この家に引っ越してくる前から、彼は悪行を働いてきたことが分かっています。
それが、大学を転職するために必要だった推薦状も、ジョージの指導教授からは推薦を断られており、偽造したこと。しかも、偽造を何の罪とも感じていないこと。
もともとから、自分の利益のためには犯罪をも辞さない野郎だったということです。
そりゃ、悪霊にも取り憑かれますわな。
ざまあみろ、と言いたいところですが、そのせいで、キャサリンだけではなく、偽造の罪を告発しようとした学部長、同じくその罪を知っているジャスティンすら殺そうとした(学部長は死亡)のだから、彼らの身になってみれば、とばっちりもいいところ……
自らの浮気は脇に置いて、妻の浮気(こちらはたった一度の過ちですけれども)を皮肉混じりに責め立て、拒食症の彼女に寄り添おうともせず怒り、自身の告発のときでさえ同情の色を浮かべてくれた温厚な学部長もあっさり抹殺、一度は浮気しようと試みたジャスティンさえも平気で手に掛け……従兄弟を殺したのもこいつなのでは? という憶測まで浮かぶ。
また、妻を殺しておいて、近所には悲壮感たっぷりで娘を連れて駆け込み、保安官の前でも同じような言動。
自分のせいで空席となった学部長代理の座まで「僕で大学の役に立てるなら」と悲しそうな顔を浮かべて獲得してしまう。
凄まじいまでのサイコパシー。
ただ、霊界を真っ向から否定していた彼でさえ、最後の最後、霊の存在に追い詰められ、自ら地獄の門を叩くこととなるので、非常に胸がすっといたします。
霊がラジオを鳴らして、コンセントを引き抜いても音が止まないのを怖がるどころか、ぶち切れてラジオを床に叩きつけるような超短気男だったので、どうやったら霊でこいつを追い詰められるんだろう…とハラハラしていましたが、本当に良かった。
もう、中盤からキャサリンのことを「キャス」と呼んでいるだけで腹が立ったもんな。
お前のような最低男が愛称で呼ぶな、と思ってしまって……
金の指輪に描かれた模様(二人の女性が向かい合っている)が、終盤、とても綺麗な形で伏線回収されたのも好きな場面の一つです。キャサリンに起きたことは、これまでこの家に住んだ人々に何度も降り掛かった出来事だったのですが、やっと彼女たちの霊が浮かばれます。
奇跡的に目覚めたジャスティンにも感動しましたが、やったれジャスティンーーーーーー!!!という心からの声援を送ってしまった。
彼女が快復してからジョージに送った「私を覚えてる? 私は全て覚えてる」という素敵な伝言に、思わずにっこり。
しかもジャスティンが直接手を下すわけではなく、ジョージ自ら地獄の門を潜る、という展開だったので、本当にすっきりした。
ジョージのこれまでの数々の言動で溜まりに溜まったフラストレーションが、一気に解放された気がしました。
ストレスを解消したい、という方にもオススメの(?)、素晴らしい作品です。