あお くろ ぎんいろ。

ぽつっと、ひとりごと。 たまに、しゅみをつめこんでみる。

2021.3.21_映画『VIVARIUM ビバリウム』感想



こんにちは。こんばんは。おはようございます。
映画『VIVARIUM ビバリウム』を鑑賞してきたので、感想を書きます。
17日に観てきたのですが、書くのが遅くて今まで掛かってしまいました。


今回、鑑賞した映画館が初めて行くところだったのですが、ものすごく素敵なところだったので、まずはその話を書きます。
3段ほどの階段を上がって、ガラスの填め込まれた茶色の木製の扉を押し開いた瞬間。
大正?昭和?レトロな雰囲気が広がっており、ノスタルジーいっぱいでした。
ふかふかの絨毯が敷き詰められていて、上下の移動は古めかしい螺旋階段。
年配の女性が一人でチケットを販売していらっしゃいました。
カフェもあったのですが、カフェというより「カフェー」もしくは「喫茶店」という雰囲気で、これもレトロ。
劇場内の座席は赤い絨毯生地で、半分より後方の座席は2メートルほど高い位置にあり、狭い階段を昇って着席。
段差に沿って金色の手摺が付いているのですが、これも着席したときの視線からスクリーンにかからないようになっていて、絶妙。
上映開始時にはブザーが鳴り、観劇するときのような、どきどき、わくわくする感覚が呼び起こされました。
また、上映開始時と終了時には女性の声でアナウンスが流れるのですが、これも古めかしくてよかったです。
お客さんもあまり多くないせいか、ミニシアターだからか、劇場の空間全体に静寂が満ちていて、それでいて空気は張りつめておらず、とても居心地がいいところでした。

よく行くミニシアターは日比谷にある劇場なのですが、そこともまったく異なった、とても素敵な場所でした。


さて、本題の、作品の感想です。
毎度のことですが、これから先は結末までのネタバレを含む感想しかありません。自分の備忘メモなので。
作品の結末を知りたくない、という方は、今すぐこんなページは閉じて劇場でご覧ください。
また、拙い文章を見たくない、洗練されたレビューを読みたい、という方も、ここまでお読みいただきありがとうございました。ほかのページを検索なさってください。

 

















もともと、この作品に興味を持ったのは、フライヤーでした。
無機質な、静かな、淡い水色の色彩。
それでいて、ひたひたと迫ってくる恐怖が滲み出すように感じられて、これは見なければ!と思い決めました。

それから予告を見て、ますます、見たほうがいい、という思いを強くします。
是非、予告だけでもご覧いただきたいです…最後に表示される前売り券のデザインの、まあ悪趣味なこと(褒め言葉です)!
一方で、突然の大声が苦手な方は、予告で慣れてから行った方がよいかと思います。
雨影は、この予告編で(苦手な大声を出される)覚悟を決めました。

そしていつものごとく、何も前情報を入れずに行ったのですが、鑑賞後、本作品でのキーワード2つについて意味を調べたくなり、調べて…ぞっとしました。

●vivarium=生きている動植物を保護し、育てて、自然の状況の下で彼らを観察するための屋内の囲い。生物本来の生息環境を再現した飼育容器。

●yonder=向こうの、あそこの。(名詞で)はるか遠く、彼方。

さらに、公式サイトに接続すると最初に表示される、ロード画面の文章。
劇中で『Yonder』の敷地前に掲示されている看板と同じ文章と思われますが、それが、
“YONDER Quality family homes. FOREVER.”
直訳すると、「『YONDER』は素晴らしい家族の我が家。『永遠に』。」

…これが、とてもぞっとしました。
そうか、Yonderは「彼岸」であり、管理人たちの「飼育容器」なのか…。
(あくまで、雨影がそう感じたというだけなのですが)

全体を一言でいうと、「不気味」でした。
それと、話されている英語が聞き取りやすく、そして単語が平易なため、字幕なしでも十分意味が分かるので、その分、映像に集中することができました。

あらすじは、そんな公式サイトをご覧ください。
「→」から先が感想です。

●冒頭、カッコウの托卵の場面が描かれる。

カッコウの雛が、ほかの卵や仮親の雛を巣の外に蹴落としていく音や色は、こうして改めてじっくり見ると、グロテスクに感じられました。
 耳を劈くほどの鋭い鳴き声を上げ続けるカッコウの雛。
 体の小さな仮親が、自分より大きいカッコウに一生懸命に餌を運び、与えているところは、哀れですらありました。
 先に、この作品の展開を簡単に書くと、この「仮親」にされた主人公たちが、得体の知れない存在(見た目は赤ちゃんだが、育つ速度が異常に速い)を育てた挙句、死ぬというものです。
 カッコウの托卵と構図が同じ、というお話です。



●その後、ジェマが働く幼稚園?に場面は移る。
ジェマが、園児たちとお遊戯をしている。
園児たちは、美しい緑色の木のまね。そこに風が吹いてくる。それが嵐に変わる。

→ここで、みんなの立てる風の音が不気味に感じられます。
 それにしても、「ものまね」や「風」がこの後も出てくるとは思いませんでした。



●帰宅の時間。
ジェマが、家探しをしていることが語られる。早く決めた方がいいと助言する同僚。
幼稚園の、庭の木の下に、カッコウに蹴落とされて死んでいる、生まれて間もない雛。
それをじっと見下ろす、園児の女の子。
ジェマが話し掛けると、「どうしてカッコウは自分で巣を作らないの?」と聞かれる。
それに対し、少し考えた後、ジェマは「自然ってそういうものだから」と答える。
女の子は、「そんなのって酷い。あんまりだわ」と悲しそうに言った後、母親に呼ばれてジェマと別れる。

→この場面こそが、作品の本質だったように思います。
 この後、ジェマに降りかかる理不尽な出来事も、すべて「自然ってそういうものだから」と片付けられてしまう。
 「酷い」と感じるけれど、どうしようもない。感じ方はそれぞれあったとしても、托卵は事実として存在する。
 不条理だ、と思いながらも、それを受け入れなければ仕方がない、というあたりに、冒頭に書いた「不気味」さを感じました。
 ちなみに、カッコウの托卵の理由は、安定して繁殖するためだったような気がします。
 カッコウは体温変動が大きく、自分で抱卵するよりも、ほかの種に抱卵してもらった方が無事に孵化しやすいからだったような。
 違っていたらすみません。



●ジェマが木の下に佇んでいると、恋人のトムがふざけて話し掛けてくる。
トムは、「可哀想に」と言って、シャベルで土を掘り、雛の亡骸を埋める。
そして、手を組んで祈りを捧げる。
それを笑うジェマに対し、「おい、ふざけてるわけじゃないぞ。こういうのは大事なんだ」と言ったため、ジェマも手を組んで祈った。
トムの仕事は植栽関係?土木関係?のようで、「体臭が気になる」とジェマが言うと、トムはシャツを着替える。
それから、2人で車に乗り込んで不動産屋へ向かう。
トムが少し変人である様子が描かれる。


●不動産屋に到着。均一な、青緑色の家の模型がいくつも並んでいる。
奥の机に、半袖のシャツを着た男が座っている。
しばらく、店舗に入ってきたトムとジェマの会話を観察した後、立ち上がってジェマに話し掛けた。
男の話し方も、握手の求め方も、貼り付けたような笑みと相まって、どこか作り物のようで、ぎこちない。
『マーティン』という名札プレートを付けた男は、『Yonder』が理想の家であるということを高揚して語った。
郊外に建っているが、治安も悪くないし、不便でもない。家族が住むべき家であり、飛ぶように売れていると。
「どこに建っているの?」と聞くジェマに対し、「ここからはるか遠くでもなく、近くでもない」と奇妙な答えをする不動産屋。
2人が「一旦、今日は帰って、また考える」と保留にしようとすると、「構わないが、次に来た時に残っているか分からない」と言う。
そして、やや気圧されている彼らに、男は「下見に行こう」と強引に連れ出す。
2人も、「下見だけなら」とあまり乗り気ではないが、付いて行くことに。
不動産屋の手に握られた車の鍵には、『Yonder』の家のキーホルダーが付いていた。

→ここまでに登場した人々は(園児たちや、トムとジェマも)上着を羽織っているのに、不動産屋だけが半袖シャツなのが奇異に映って、印象深かったです。



●不動産屋の運転する車に続いて、『Yonder』に到着。
ずらりと立ち並ぶ、どれも同じ外見の青緑色の家々。
その中の一つ、玄関ドアに『9』と数字プレートの付いた家に、不動産屋は案内する。
壁はどれもワントーン。
また、居間の壁には、『Yonder』の家が描かれた絵が、額縁に入って掛けられている。
「リビングは、まさに居場所。思い出を作るのに相応しい広さを用意した」と話すマーティン。
続いて、マーティンが台所の冷蔵庫から取り出したのは、ラッピングされたシャンパン。
「歓迎の証に」と2人に差し出すが、2人は「車を運転するので」と断る。
「では、イチゴなら?」とマーティンは言うが、トムは「運転するので」と再度断る。
マーティンは、少し悲しげな、皮肉を理解できなかったような、反応に困ったという表情を浮かべた後、無表情に戻って2階へ。
2階の子ども部屋の壁は青色で、まるで男の子が産まれることが予見されているようだった。
「お子さんは?」というマーティンの問い掛けに、「いえ、まだです」と答えるジェマ。
ジェマの「いえ、まだです」のものまねをしてみせるマーティン(予告編で見ることができます。不気味です)。
主寝室の広いベッドに腰掛け、「主寝室です」とだけ案内して足早に裏庭へと向かう。
マーティンの不審な素振りを見ながら、ジェマがふと視線を落とすと、ベッドには夫婦用の真新しいパジャマが置かれていた。
広い裏庭に2人を案内した後、マーティンの姿がふっと消える。
2人は探し回るが、不動産屋の姿はない。
家の外に出ると、男が運転してきた車もなくなっている。
ここまでの不動産屋の怪しげな様子を不審に思っていた2人は、「今のうちに帰ろう」と車を出す。
しかし、どれだけ帰ろうとしても『9』の家の前に戻ってきてしまい、『Yonder』から出ることができない。
焦り、苛立ちが募る。
トムはジェマに、「車の運転を交替しよう」と強引に迫り、運転をしてみるのだが、結果は同じ。
そのうち太陽が沈み、夜になったが、『9』の家の前に戻って来るだけだった。
車はガス欠となり、彼らは運転を諦める。
「誰かいませんか?」と大声を張り上げるが、無人の住宅街に空しくこだまするだけだった。
疲れ切った2人は家に入り、昼間に見せられたシャンパンとイチゴを「とりあえず飲もう」と冷蔵庫から取り出す。
しかし、シャンパンもイチゴも、何故か味がしなかった。
寝室で眠る2人。
「こんなに静かなのは初めて」とジェマが零す。

→『Yonder』の奇妙な世界に閉じ込められたときの絶望や焦りがよく伝わってきて、作品に沈み込んでいくような感覚でした。
 自分だったらどうするだろう、庭だけ突っ切るように車を運転するかなあ。
 壊れた庭や家はどうなるだろう、壊れたままなら、どこまで自分が来たか分かるだろうし、などと思いますが。
 あと、今どき青=男、という作り方はジェンダーが!などと声が聞こえてきそうな気もしますが、それは横に置いておいて、こんなワントーンだらけの家にいたら気が狂いそうだなとは思いました。
 まず、あの均一な家々が立ち並ぶ住宅街に足を踏み入れる前に、帰ります、と言いたくなってしまう。住みたくないです…
 ちなみに、「9」は1桁の数字の中で最大の数字であるため、「究極」、「完結」、「完成」を意味していたと思います。
 また、中国では「久」と発音が同じなので、「永遠」の意味もあったような。
 中国での意味が、この作品の意図と関係があるか分からないのですが、何だか無関係にも思えず、書いてみました。
 にしても、シャンパンとイチゴが美味しければよかったのですが、味がないとなるとなあ…。
 この世界での楽しみは、それこそ飲食くらいしかなさそうなのですが、それも駄目となると、いよいよ精神に異常をきたしそうな気がします。
 音楽も、人気も雑音もなく、しんと静まり返った空気は、耳が痛いほどでした。



●翌朝、脱出の糸口を掴もうと、トムが車に乗せていた脚立(梯子)で家の屋根に上る。
だが、そこに広がっていたのは、一面同じ屋根の家々がどこまでも、どこまでも続いている光景だった。
スクリーンを貼ったような、現実味のない空。
その空に浮かぶのは、これもまた作り物のような、すべて同じ楕円形の、無個性な綿雲。
見渡す限り、前にも後ろにも、右にも左にも、同じ屋根が続くばかりの景色。
トムはジェマに、「太陽を追いかけて、家の裏庭をずっと突っ切り続ける」ことを提案する。
汗だくになりながら、一日中、無人の住宅街を歩み続ける2人。
ぼろぼろに疲れ切ったジェマは、日没の頃、とうとう一つだけ明かりの点いた家を見つけ、座り込んだトムに嬉しそうに呼び掛ける。
その家に駆け寄り、カーテンを閉め切ったガラス窓の外から拳を打ちつけ、声を張り上げて懸命に助けを求める。
しかし、裏庭の扉から家に入ると、台所の机には、昨夜飲み食いしたシャンパンとイチゴが散乱していた。
「どういうことだ?」と彼らが玄関に向かうと、扉には、『9』のプレートが掛かっていた。
そして、家の前の道路に、ぽつんと段ボールが1つ、置かれていることに気づく。
ジェマはそれを配送してきた存在の姿を探すが、『Yonder』は静まり返っており、無人
2人が慌てて箱の中身を見ると、そこには真空パックされた食材など、無機質な印象の食材ばかりが入っていた。
怒りと焦燥がピークに達したトムは、乱暴に段ボールを抱えて家に戻ると、食材を床にぶちまけ、箱のふたを乱暴に破り、それにライターで火を点ける。
その火をカーテンに移し、家を燃やし始める。
家の外の道路に座り込み、勢いよく炎上する家を眺める2人。
「どうしてこんなことをするの?」と尋ねるジェマに、「SOSの狼煙だ」とトムは答えた。
疲れた2人は、身を寄せ合い、そのまま寝入ってしまう。
翌朝、近くで何か音が聞こえて、ジェマは目を覚ました。
すると、道路にはまた段ボールが置かれている。
その中には、全身濡れた赤ちゃんが声を上げていた。
段ボールの裏蓋には、「育てれば解放する」という印字。
そして、朝霧の向こうには、昨夜の火事などなかったかのように、元通りに佇む家があった。

→トムの見た光景は、本当に、ぞわあっとしました。
 あの、予告編でも流れている女性の歌声の曲が流れるのですが、その音と映像の歪さが余計に恐怖を煽るというか。
 あと、家がどうやって修復したのか気になる。
 最後の方で、庭の芝生がひとりでに元通りになる場面があるのですが、そこからすると、生き物のようにすーっと直ったのかな。
 そうだとしたら、その経過を見てみたいです。



●98日目。赤ちゃんから小学生ほどの大きさに成長した少年が、朝から寝室にやって来る。
少年の服装は、かつて不動産屋のマーティンの服装(半袖ワイシャツにズボン)そのもの。
そして、トムとジェマに中指を立てられ、そのものまねをするなど、とにかく模倣行動が多い。
ジェマから教わった犬の鳴き真似も、飽きずにやっている。
少年からねだられ、ジェマは、リビングの壁に身長を測って刻んでいる。
そのいくつもの線で刻まれた記録は、彼の成長の異様な速さを物語っていた。
トムは、少年に対し「ミュータント」「it(それ)」という言い方をして、不気味そうな視線を向けている。
ジェマは、「私は、あなたの母親じゃない」と強い口調で繰り返すが、同時に「あの子」という言い方をしていて、その度トムから注意される。
食事の際、空腹を意味しているのか、少年は席に着いたまま絶叫。
耳を劈くほどの叫び声を浴びながら、トムとジェマがコーンフレークを(手際よく乱暴に)用意し、ボウルにスプーンを突っ込む。
その瞬間、少年の叫びがぴたりと止まり、コーンフレークを食べながら、「おいしい、おいしい」と無表情で言う。
少年とともに食事をする2人の口元がアップになるが、不味いものを無理やり嚥下するように歪んでいる。
ほとんど食べない2人分の食事の残飯を、トムは乱暴に段ボールに突っ込むと、箱を道路に投げ捨てる。

●前庭に出た3人。ジェマは段ボールを回収に来る存在を捕まえようと、箱をじっと見つめているが、トムは「無駄だ。見ている間は回収に来ない」と諭す。
トムが捨てた煙草の吸殻が、芝生に落ちた途端、芝生がじゅっと円形に禿げ、地面を晒した。
それを見て、地面を掘って脱出しよう、と閃いたトムは、車に積んでいたシャベルとツルハシで、その地面を掘り始める。

●その日から、トムは一心不乱に一日中穴を掘り続ける。
「意味がないからやめたら?」と言うジェマに対し、「それなら、屋根に『助けて』なんて書くのもな」とトムが返す。
(ジェマは、屋根の上に、白いシーツで大きく『HELP』と形作っていた。)
ある夜、トムとジェマが寝室でセックスをする。それを、扉の隙間から少年がじっと無表情で見つめていた。(穴掘り開始前だったかもしれません。)
その翌日から、徐々に状況が変化していく。
朝から少年が寝室にやってきて、絶叫で2人を叩き起こす。
そうしておいて、トムとジェマの不仲なやり取りをものまねで再現してみせる。
ジェマは少年の世話をする。トムは徐々に2人から距離を置き、穴掘りに没頭するようになる。

→解釈としては、自分たちの本当の(血の繋がった)子どもができるかもしれない、という事態に直面した少年が、そうはさせまいと動き始めたのかな(カッコウが仮親の卵を巣から落とすように)と思いました。
 特に、自分の世話をしてくれるジェマよりも、自分をずっと拒んでいるトムをまずは排除しようと考えているのかなと。
 ジェマも、少年が自分の子どもではない、と認識はしているようですが、母性本能?で世話は懸命にしています。
 ちょうど、仮親の鳥たちが、自分の子どもの卵と、カッコウの卵の識別能力を習得していくように。
 それでも、孵化してしまったカッコウには、育雛本能で懸命に育てていくように。



●ジェマがある夜、車の中で深呼吸をしている。
トムも乗り込み、「ここは生きている空気って感じがする」と言い、同じように深く、車内の空気を吸い込む。
ジェマの手が偶然車のカーステレオに当たる。
すると、『Yonder』に来るまでに2人で口ずさんでいたCDの曲がかかり、「バッテリーが生きていた!」と2人で狂喜する。
曲に合わせて歌い、体を揺らす2人。
車のドアを開け放し、フロントライトの頼りない光の中、大音量の曲に合わせて2人でめちゃめちゃに踊る。
それを聞きつけた少年もやって来て、何がなんだか分かっていない表情を浮かべたまま、2人の真似をして踊り始めた。
しかし、途中でトムにぶつかってしまい(わざと?)、転倒したトムは強かに道路の縁石に後頭部をぶつける。
途端、バッテリーが切れ、曲もライトも消えた。
怒ったトムは起き上がり、少年を突き飛ばして家に戻って行った。
少年が怪我をしていないか、心配するジェマ。
その後、トムはジェマからの夜の誘いも断るようになった。

●ある夜、少年は1階リビングのテレビを点けて、不気味な映像を見ている(墨汁のような染みが、複雑な毛細血管のようになり、歪み、広がり、となっていくような映像)。
おそらく、毎晩見ていた様子?
だが、最初は静かだったその映像が、低く唸るようなブーンという音を立てるようになり、2階寝室で眠っている2人も目を覚まし、リビングに下りる。
トムは怒鳴って、画面を消す。しかし、少年は再び画面を点ける。
ジェマがリモコンを取り上げ、画面を消すと、少年はリモコンを取り返して再び点ける。
消す、点ける、消す、点けるの繰り返し。
ジェマと少年が激しく「点けて!」「だめ!」と言い合いになる。
トムはそれを離れたところから眺めていた。
ジェマに、「どうしたらいい?」と問われ、トムは肩を竦めるだけ。
また、トムは食事も一人でとるようになり、一方のジェマは、少年と庭でピクニックごっこをする。
寝そべって空を眺める2人。
雲の形が何に見えるか、とジェマが尋ねるが、「あれは?」「雲!」「あれは?」「うーん、あれも雲!」というやり取り。
「わたしが来たところでは、雲はいろんな形をしていた。例えば犬とか」というジェマに、犬の鳴き真似をする少年。
犬の鳴き真似を2人でするが、途中からジェマは遠吠えになり、遠くの空を、目を見開いて見つめ、一心に遠吠えをする。

→どれも同じ形の雲で、こんなやり取りをするのも狂気的だし、まるで犬になったように遠吠えを繰り返すジェマの姿はもう壊れかけているんだなと思いました…。
 「家に帰りたい」というジェマに対し、「ここが家じゃないか、変なママ」という少年のやり取りも登場します。
 家に帰りたい、というジェマの切実な心情が、遠吠えに表れている気がしました。



●ジェマが主に少年の食事を用意するようになったが、コーンフレークを準備しても絶叫が止まない。
「どうすればいいの!?」と困り果てたジェマに、それを後ろから眺めていたトムはおもむろに近づいていく。
そして、コーンフレークの入ったボウルを壁に乱暴に叩きつけ、絶叫をやめない少年を無理やり抱えて、家の外に連れ出した。
停めている車に少年を閉じ込め、「このまま餌をやらずに餓死させてやる!」と威嚇。
少年は車の窓をバンバンと激しく叩きながらも、絶叫をやめない。
トムは、車の鍵を取り返そうと懇願するジェマも無視。
また、だが、隙を見て鍵を奪ったジェマは、少年を抱え上げて「怖い思いをさせてごめんなさい。もうこんなことはしないから」と泣きながら言う。
ジェマは、少年を夜寝かしつけることまでするようになる。
「おやすみ、ママ」と言われ、「私はあなたの母親じゃない」と返すと、少年が絶叫。
それを止めるために、ジェマは躍起になる。
その翌朝、少年の姿が消える。どこを探しても見当たらない。
トムに聞いても、彼は穴掘りに夢中で(もう5m以上はとっくに掘っていそうな穴の中)見ていないと首を振る。
一日中、外を探し歩いて憔悴しきったジェマが家に帰ってくると、前庭に佇み、穴の中を見下ろす少年を見つけた。
その腕には、分厚い本が抱かれていた。
ジェマがその夜、本を開くと、複雑な記号のような文字がびっしりと書き込まれており、意味は分からない。
だが、あるページには、少年が夜、テレビで眺めている奇妙な図形がみっしりと描かれており、あるページには、男と女の図、そこから子どもが生まれるような図が描かれていた。
それをじっと見つめるジェマ。
少年に、今日誰に会ったかを尋ねるが、彼は口を噤む。
ジェマは「ものまねゲームをしよう」と言い出す。少年は目を輝かせて頷く。
犬のまね。トムのまね。ジェマのまね。
一つ一つ、ジェマはそれを拍手して褒める。
そして。
「今日、初めて会った人のまね」をしてほしいとジェマが言う。
すると、少年はゆっくりと屈み、俯いて、鳥のような、奇妙な鳴き声を上げ始める。
ばっとこちらを向いた少年の首は、まさに鳥の声帯のように大きく膨らんでおり、声を発するたびに袋状のそれらが伸縮した。
恐怖に戦き、後退るジェマ。
それを不思議そうに首を傾げて、「どうしたの?」と少年は発した。

→ここら辺、イベントの順番は必ずしも時系列になっていないかもしれません。
 にしても、展開が分かっていても怖かったなあ。
 少年たち(トムの言う「ミュータント」)が何をしているのか(画面の意味は何なのか?)、ヒントとなる書物を見ても全然分からないので、やはり「理解できない」ことは即ち恐怖なんだなと感じました。
 それと、これはただの解釈ですが、少年の模倣の巧さは、カッコウたちが托卵を成功させるため、卵の柄を仮親の卵の柄に似せるよう進化していったことになぞらえているのかなと思いました。



●一方のトムは、穴を掘り続けているうちに、何かの音(唸り声、囁き声、鳥の鳴き声らしきもの?)が底から聞こえてくる。
彼は、穴の底に向かって「お前らを絶対殺してやるからな!」と怒鳴りながら、穴を深く、深く、掘り進めていく。
そのうち、トムは食べ物もあまり食べなくなり、穴掘りだけに没頭する。
そして、頻繁に咳を漏らすようになった。

→何故食がどんどん細っていって、咳を頻繁にするようになったのか、理由がよく分からない。
 砂を吸い込みすぎたせいなのか、何なのだろう。



●月日は流れ、台所での朝食。少年は大人になっている。
髪型や服装、体格は、ますますかつてのマーティンを彷彿とさせる(顔つきは、勿論別の役者さんなので、まったく別だけれども)。
出される食事も、コーンフレークではなく、かつてトムとジェマが食べていた目玉焼きやハムなどに変わっている。
男の「ママは食べないの?」に対し、「わたしは要らない」と答える(正確な言葉は異なっている気がします…)。
それについて、男が「それは皮肉?」と聞く。
トムはどんどん弱っていき、あちこちに痣が浮かぶ。一人で食事も満足にできなくなる。
だが、穴掘りは続けていた。
ある日、トムは穴の底に何かを見つける。
一方、ジェマは、男がどこかに行くのを尾行する。
だが、度々男を見失い、革靴の硬い靴音は住宅街に反響するものの、おかしな方角から男が出てきて、それを追って見失い…を繰り返す(空間は明らかに歪んでいる)。
家にも帰れなくなり、迷って「誰か!」と叫ぶが、それはむなしく響くだけ。
視点は家の前に戻る。
トムは、家の前の道路に力なく横たわっていたが、どこからともなくジェマの「誰か!」というこだまが微かに聞こえてきて、何とか身を起こす。
「ジェマ!」と叫ぼうとするが、咳き込んでしまう。
それでも何とか叫び返し、「トム!」「ジェマ!」とお互いに呼び合うことで、日没前に何とかジェマが家の前に辿り着く。
声もほとんど出せなくなったトムに駆け寄り、ジェマは彼を抱きしめる。
ジェマに凭れ掛かるような体勢のまま、トムは、ジェマと出会った時のことを思い返し、2人で語り合う。
彼氏?がデートをすっぽかし、途方に暮れていたジェマをトムが誘ったこと。
トムはジェマを慰め、そして一夜を明かした翌朝、ジェマが朝日の中から現れて(トムにはそう見えた)、「スクランブルエッグ食べる?」とだけ聞いてきたこと。
そして、トムは「僕にとっては、君が家なんだ。建物としての家じゃない。意味が分かるかい。だから、僕はどこにいたって、君さえいれば…」という言葉を最後に、息絶える。

→トムの最期の言葉、ニュアンスは違うかもしれません。
 ただ、ここは何というか、日没の赤く、黒く暮れていく光の中ということもあり、くたくたに疲れ切った後の死、という印象で、見ていて涙が込み上げてきました。
 トムは、「風が懐かしい」という話もしていました。ここで伏線回収か、と驚いた覚えがあります。



●トムの亡骸を抱え、咽び泣くジェマのもとへ、箱を抱えた男が帰って来る。
トムのことを助けてくれと泣きながら懇願するジェマを冷たく見下ろしてから、男が箱を地面に下ろし、中を開ける。
ジェマが慌てて中身を取り出すと、それは、遺体を収納する袋(ジッパーの付いたコートカバーのような見た目)だった。
あまりの惨さに、それを放り出し、泣き叫ぶジェマ。
だが、男は淡々とトムを袋に入れ、ジッパーを上げると、中の空気を抜く。
そして、縋りつくジェマを意にも介さず、トムの亡骸を、乱暴に庭の穴に放り落とした。
穴の縁で泣き声を上げるジェマ。
男はそのまま家に入ってしまい、ジェマは締め出されてしまった。
ジェマは、ガラス窓を必死に叩いて、中に入れてくれるよう叫びますが、男はリビングのソファでゆったりとくつろぎ、例のテレビ画面を眺めるばかり。ジェマを一瞥するだけだった。
そして、そのまま何日か経過した?朝、男が家を出る。
そこにジェマが取り縋って、何か食べ物が欲しい、死にそうだと懇願する。
だが、男は無視して出て行こうとする。
ジェマは足元に落ちていたツルハシを咄嗟に拾い上げ、男の頭に向かって振り下ろす。
額に怪我をした男は、そこを手で押さえながら、「ケケケケケケケケケケケッ!」と鳥が威嚇するような鳴き声を上げて逃げ出す。
ツルハシを持ったまま男を追いかけるジェマ。
男は、道路の縁石に手を掛ける。
すると、縁石はカーペットのようにぐんにゃりと曲がって持ち上がり、間に黒い空間があった。
そこに身を滑り込ませ、男は逃げる。
空間が閉じて元に戻ろうとしたところを、ジェマはすかさずツルハシを噛ませた。
そして、その空間を覗き込む。
そこは、紫色をしており、階段やドアなどを適当に乱暴に配置したような、歪んだ空間だった。
男は、ジェマを振り返って「ケケケケケケケッ」と再び鳴き声を上げてから、その中の一つのドアを開けて逃げ込む。
ジェマも後を追うが、滑ってある一つの空間に入ってしまう。
そこでは、寝室のベッドの上で、騎乗位でセックスする男女、それをドアから眺めて(律動に合わせるように)手拍子する少年。
空間が歪んで、少年がリビングで食事する光景になる。キッチンで、さめざめと泣いている女性。
そこにジェマが近寄っていくと、女性と目が合ったような、しかし、ジェマの足元が突然ぐにゃりと柔らかく歪み、蟻地獄のように全身が呑まれていく。
別の空間に飛ばされるジェマ。
(ほかにもいくつか空間があったかもしれません。)
……ジェマは、寝室のベッドに横たわっている。
男が横に居る。
「家に帰りたい」と呟くジェマ。
「家はここだよ」と言う男。
そして、男は遺体を収納する袋にジェマを入れる。
ジッパーを上げ終える直前、ジェマが何事かを微かに呟いた。
「何?」と覗き込む男。
「私は、あなたの母親じゃない」(“I’m NOT your FUCK mather.”)
その言葉を最期に、ジェマは動かなくなった。
男はジェマを入れた袋の空気を抜き、それを抱えて家を出る。
そして、トムを放り込んだあの庭の穴に、ジェマを投げ落とした。
シャベルで、穴の土を埋め戻す。
トムが何十日もかけて掘った、あれだけの深さのあった穴を、男は汗ひとつかかないで埋め戻すと、最後にシャベルでポンポンと土を叩く。
すると、土の上から芝生が生え、庭は何事もなかったかのように元通りになった。
男の身長を成長記録として刻んだリビングの柱に、男が白いペンキを塗り直す。
刷毛でペンキを上塗りし、そこも何事もなかったかのように、最初の姿を取り戻す。
ジェマと男の会話。
「育て終えた後、私たちはどうなるの?」
「死ぬんだよ。育てることが役割なのだから」

→男が逃げ込んだ空間を見て、リトルナイトメア2の、チューニングして入り込むテレビ画面の中みたいだなと感じました。
 ジェマが巡った空間は、何だろう、ただの幻影なのか、それとも、過去にマーティンたちを育てた人たちがいた、ジェマたちのようなことを繰り返してきたのだ、ということなのか。
 縁石がぐんにゃりと曲がるあたりから、夢でたまに見るような感じの光景で、まさに非現実的な、悪夢でした。
 それにしても、ああ、男を育てたジェマも、死ぬことになってしまうのか、それが自然の摂理なのか、と、理不尽ながらも、これで納得せざるを得ないような気もするから不思議です。



●男は、ジェマの車を運転して、あの不動産屋にやってくる。
扉を開けると、そこには、白髪になり、しわがれて、呼吸をするのがやっとの状態のマーティンが椅子に座っていた。
椅子の横にあった引き出しから、例の袋を取り出すと、男はマーティンをその中に横たえた。
そして、彼の胸ポケットに掲げられた「マーティン」と刻まれた金の名札を取ると、自分のシャツの胸ポケットに差し込み、満足げに頷く。
袋の空気を抜き、今度は、「マーティン」の爪先から順に、それこそ衣類を圧縮するように、袋をぐるぐると巻いていく。
バキバキ、と音を立てながら、しかし、おかしなほどスムーズに、まるでポスターでも巻いているように、袋は小さくなっていく。
そうして、頭の部分まで巻き上げ、巻き寿司のようにすると、男はそれを抱えて引き出しを開ける。
その細長い引き出しには入りそうにないように見えるが、それでも奇妙なことにそれは見事に収納され、引き出しは閉まった。
男は、革張りの椅子に深く腰掛け、満足そうに肘掛けを撫でる。
店の正面を向くと、ちょうど、夫婦が訪ねてきた。
『Yonder』の模型を覗き込む夫婦に、「マーティン」が立ち上がろうとする、というところで終幕。

→遺体袋の空気を抜いて真空パックにすると、当たり前ですが、皆の鼻がぺちゃっとひしゃげるところが、見ていて面白かったです。
 バキバキと骨を折る音を立てながら、スムーズに巻いていく場面は、ぞっとするけれども、シュールで小気味よく感じました。
 最後のマーティン交代の場面は、いろんな解釈があり得ると思います。
 『Yonder』では年単位での歳月は過ぎていないが、現実世界は実は何十年と経過していたとか(彼岸と此岸で経過する年月の早さが異なる、というのはよくある話ですし)、「マーティン」は成長速度が人間に比べて異様に速いので、寿命も早いとか。




最後まで観て、最初の、園児とジェマの会話に戻ると、ぞわっとして面白いです。
ああ、そういうことかと。
カッコウたる「マーティン」たちを育てるために、人間たちは飼育容器に放り込まれる。
育て上げたとしても、死という解放が待っているだけ。
むごいことだけれど、理不尽だけれど、「自然ってそういうものだから」仕方がない。

ただ、「マーティン」たちが何を目的にあんなことをしているのかが分かりませんでした。
トムが何故あんなに衰弱していったのかも。
そして、あれだけたくさんの家があるのに、ちゃんと原状復帰をするあたり、ずっと同じ『9』の家しか使っていないのかなと、そこが不思議でした。
あと、何でマーティンはずっと半袖なの? 寒くないの? 真冬でもあのスタイルなの? そんなことしていたら、客が気味悪がって逃げてしまう気がするけれど。
などと、要らないかもしれない想像をしながら、でも、そんな疑問も全部、「自然ってそういうもの」なのかもしれません。

じわじわと迫ってくる、「理解できない」「それなのに、逃げられない」という怖さがとても興味深い作品でした。
是非!